出っ歯の矯正で人中は短くなる?理由とビフォーアフター解説
出っ歯にお悩みの患者さまのなかには、「矯正によって人中も短くなるのでは?」と気にされる方も少なくありません。たしかに、出っ歯の矯正は歯並びだけでなく、顔全体のバランスに変化をもたらすことがあり、その影響が人中に現れるケースもあります。
そこで本コラムでは、まず「人中とは何か?」という基本から解説し、なぜ出っ歯の矯正で人中に変化が出るのか、その仕組みと注意点を解説。さらに治療前後の顔貌の変化(ビフォーアフター)について、医学的に正しい視点からご紹介します。矯正を検討中の方にとって、より納得のいく判断材料となるよう丁寧にお伝えしていきます。
▼そもそも人中とは?
人中(じんちゅう)とは、鼻の下から上唇までにある縦の溝の部分を指します。この部位は解剖学的に「人中溝」と呼ばれ、表情筋の一部である上唇挙筋や鼻中隔下制筋、口輪筋の動きと関連して形成されています。
◎人中の長さは、顔の印象を左右する重要な要素です
たとえば、人中が長いと間延びした顔に見えることがあり、年齢を感じさせる印象につながることもあります。一方、人中が短めであると、若々しく、顔全体が引き締まった印象になります。
一般的に、成人女性の理想的な人中の長さは約12〜15mm、男性では14〜18mm程度が目安とされていますが、これはあくまで美容外科領域での審美的な基準であり、個人差があります。
人中は骨格や筋肉、皮膚の厚みなど、さまざまな要素が関係しており、自然に加齢とともに長く見えるようになる傾向もあります。また、歯並びや噛み合わせの状態によっても、唇の位置やボリュームが変化し、人中の見え方に影響することがあります。
このように、人中はただの“鼻の下”ではなく、顔貌や若々しさを左右する繊細な部分であり、歯列矯正との関係にも注目が集まっています。
▼出っ歯の矯正で人中に変化が出る理由
出っ歯(上顎前突)は、上の前歯や上顎の骨が前方に突出している状態を指します。出っ歯の方は、前歯が前方に位置しているため、唇が前に押し出され、人中の皮膚が引っ張られるように長く見えることがあります。これは、単に皮膚が伸びているのではなく、口元全体の前突感が影響しているためです。
出っ歯を矯正すると、前歯の位置が内側(後方)に下がり、口元が引き締まります。これにより、唇の厚みや前方への突出が軽減され、人中の見た目の長さが短くなることがあります。
具体的には、以下のようなメカニズムで変化が生じます。
◎前歯の後退により唇の位置が変化
前歯が引っ込むと、それに伴って上唇も後退します。唇の突出感が減ることで、人中の縦の距離が短く見えるようになります。
◎口輪筋の緊張バランスの変化
出っ歯の状態では、唇を閉じるために常に口周囲の筋肉を緊張させていることが多く、人中周辺の筋肉も影響を受けています。矯正によって筋肉の使い方が自然になると、人中のシワや縦の伸びが緩和されることがあります。
◎顎の位置や骨格バランスの改善
矯正によって上下の顎の前後的バランスが整うことで、顔の中間部の印象が変わり、人中が引き締まって見えるようになります。
ただし、人中に必ず変化が現れるわけではありません。変化の有無や程度には個人差が大きく、もともとの骨格や皮膚の厚み、筋肉の発達具合などが影響します。特に成人矯正では骨格の成長が終了しているため、変化は比較的穏やかです。一方、成長期のお子さまの矯正では、骨格への影響も加味されるため、人中の見た目に明確な変化が現れることもあります。
▼出っ歯の矯正による人中のビフォーアフター
出っ歯の矯正による人中の変化は、特に横顔や斜め前からの見た目に顕著に現れます。ここでは治療前と治療後の違いについて、ポイントを押さえてご紹介します。
【ビフォー】矯正前の状態
◎唇が閉じにくい・常に半開き状態
出っ歯により、唇を自然に閉じることが難しく、無意識に口が開いていることが多くなります。口呼吸の傾向も強く、唇が乾燥しがちです。
◎口元の突出感が強い
横顔を見ると、鼻と顎を結ぶ「Eライン」から唇が大きくはみ出しているケースが多く、いわゆる「口ゴボ」状態になっています。
◎人中が長く見える
上唇が前に押し出されることで、鼻の下から唇までの距離が伸びて見え、間延びした印象になっていることがあります。
【アフター】矯正後の状態
◎自然に唇が閉じるようになる
前歯の突出が改善されることで、力を入れずに唇が閉じられるようになり、表情も柔らかくなります。
◎口元が引き締まり、Eラインが整う
前歯の位置が適正になることで、唇の位置が後退し、鼻・唇・顎のバランスが整って横顔の印象が美しくなります。
◎人中の縦の長さが短く見える
唇の前突感がなくなり、顔の中間エリアが引き締まることで、人中が短くなったように見えることが多いです。実際の皮膚の長さが大きく変わるわけではありませんが、見た目の印象に変化が現れます。
このように、出っ歯の矯正によって見た目の変化は多岐にわたり、人中の印象が変わることもその一環といえます。ただし、患者さまご自身の期待と治療結果との間にギャップが生じないよう、事前に歯科医師としっかり相談することが大切です。
▼まとめ
出っ歯の矯正は、単に歯並びを整えるだけでなく、口元全体のバランスを整える効果もあります。その結果として、人中が短く見える、顔の印象が若々しくなるなど、審美的なメリットを感じる方も少なくありません。ただし、人中の変化は骨格や筋肉、皮膚の状態によって個人差があり、すべての患者さまに同様の効果が現れるわけではない点にはご注意ください。顔貌の変化も含めて矯正治療を検討している方は、経験豊富な歯科医師と十分なカウンセリングを行い、ご自身の希望や状況に合った治療計画を立てていきましょう。